具体的な取り組み
(ターゲットと研究開発課題)

3つのターゲット(目指していること)

  • 患者さんに寄り添えるケア環境を実現

    ― ケアを提供する側のイノベーション

    患者さんに寄り添えるケア環境を実現

    看護の現場で日々生じる課題を起点に、工学・情報科学・データサイエンスなどの技術を融合し、看護師の負担軽減、的確な判断支援、ケアの質向上を目指す学際的な工学分野を、私たちは「ナーシングエンジニアリング」と定め、プロジェクトの一翼を担う研究開発課題1としています。少子高齢化に伴う人手不足により、看護師の身体的・精神的負担は増加し、記録業務の過重化も深刻な課題となっており、こうした状況は、業務上のミスが生じるリスクを高める要因にもなっています。一方で、多くの看護師は、患者理解や共感、状況判断といった本来注力すべき直接的な看護業務に、より多くの時間を割きたいと考えています。私たちは、すべてを工学技術で置き換えるのではなく、人が担うべきケアの本質を大切にしながら、工学がその周囲を支えることが理想だと考えています。その実現に向け、新人看護師が先輩看護師の手技や判断を背後から観察して学ぶ「シャドーイング」を工学研究者に推奨し、現場理解に基づいた課題抽出を行っています。川崎市看護協会との緊密な連携のもと、現場の声が直接届く体制を整えており、開発した試作品を迅速に評価し、実践的なフィードバックを得ることが可能です。現場とともに歩みながら、看護の未来を支える技術創出に取り組んでいます。

  • 加齢による身体の衰えを遅延

    ― ケアを受ける側のイノベーション

    加齢による身体の衰えを遅延

    私たちの体の中では、紫外線や化学物質で遺伝子が傷ついた細胞がん化しないように、細胞分裂機能を失った「老化細胞」と呼ばれる細胞が少しずつ増えていきます。老化細胞は、そのまま体内に残ると、周囲の細胞に悪い影響を与え、体力や筋力の低下、疲れやすさ、フレイル(虚弱)の進行につながることが分かってきました。もし、こうした老化細胞を早い段階で見つけ出し、必要に応じて取り除くことができれば、体の機能低下を防ぎ、元気な状態を長く保つことが期待できます。老化細胞の早期発見・早期除去は、歩く力や日常生活の動作を守り、寝たきりになるリスクを減らすことにもつながります。その結果、自分らしく生活できる期間が延び、健康寿命の延伸が期待されます。本拠点では、このように老化に抗うための技術(ロンジェビティテクノロジー)開発も行っており、これを研究開発課題2と定めています。最新の医療技術や工学技術の進歩により、体の中の変化をやさしく見守り、必要なときにサポートする未来が現実になりつつあります。老化細胞へのアプローチは、誰もが年齢を重ねても安心して暮らせる社会を実現するための、大切な一歩です。

  • 健康長寿イノベーションを加速する
    社会基盤を構築

    ― 社会基盤のイノベーション

    健康長寿イノベーションを加速する<br>社会基盤を構築

    上述のとおり、本拠点では、「ケアを提供する側」と「ケアを受ける側」の双方で、さまざまな研究を進めています。業務負担を軽減し、質の高いケアを可能にする技術、そして一人ひとりの健康状態や生活に寄り添う新しい支援のかたちは、人々が自立した生活を長く続けること、すなわち健康寿命の延伸に大きく貢献すると期待されています。しかし、こうしたイノベーションが社会に真に価値あるものとして根付くためには、技術開発だけでは十分ではありません。新しいケアのかたちが人々の日常に取り入れられる過程では、倫理的な配慮、制度との整合性、社会的な理解や合意形成といった課題が避けて通れません。たとえば、データの取り扱いやプライバシーへの不安、技術に対する心理的抵抗感、利用者間の格差、既存制度との不整合などは、一般大衆が新しい取り組みを受け入れる際の障壁となり得ます。これらの課題に正面から向き合い、丁寧に解決していくことが、イノベーションを一部の人のものにとどめず、社会全体の利益へとつなげるために不可欠です。これを研究開発課題3と定め、社会基盤のイノベーションを目指しています。「ケアを提供する側」と「ケアを受ける側」の双方にとって安心で、納得感のある形でイノベーションを実装すること。そのためには、技術・制度・倫理・社会の視点を横断的に捉え、対話を重ねながら共に未来をつくっていく姿勢が求められています。こうした取り組みを通じてこそ、健康寿命の延伸という目標は、現実の社会の中で持続的に実現されていくと考えられます。

3つの研究開発課題