本拠点について

少子高齢化の進展に伴い、日本における就労人口ひとりあたりの要介護者数は年々増加の一途を辿っており、このままの推移が続けば2040年には現在の1.5倍の負担となることが統計学的に予想されています。この上昇傾向を鈍化させるためには、老化の進行を遅らせ自律的な生活を営むことができる期間、すなわち健康寿命を延伸させることが必要だと以前より言われてきました。しかしながら効果的な解決策は未だないというのが現実です。そこで、私たちは様々な領域の方々とヒアリングの場を持ち、健康寿命を延伸させるために効果的なものをリサーチして来ました。その結果、在宅医療における看護の現場が、これまであまり手が付けられていないものとして浮かび上がりました。「病院では、看護師が24時間患者に寄り添い適切なケアを施すが、在宅ではそれができない。24時間患者に寄り添うのは家族であり、患者を取り巻く環境は一軒一軒異なる。健康寿命を延伸するにはケアの質を向上させることが必要なので、市民のケアリテラシー向上と誰でも手軽に家で使える看護の道具が必要。医師と看護師でなければ使えない道具では困る」という声が訪問看護師や地域中核病院の医師から寄せられ、理工系研究者が進むべき新たな方向性が見出されました。「医工看共創が先導するレジリエント健康長寿社会」を目指すべき拠点ビジョンとして掲げ、4つのターゲットと5つの研究開発課題を策定しました。ここで「レジリエント」とは、病に対して「しなやかな復元力」を有する状態と定義し、年齢を重ねるごとに進む体調の変化を日常生活の中で体系的に捉え、必要に応じて復元させる技術の開発を目指します。
この度採択された提案は、市民のケアリテラシーを高めるとともに家族など医療の専門家でない方でも自宅にいながら看護ができる道具や仕組みを創出しようとするものです。また、2045年に実現を目指す体内病院**の構想において研究が進むスマートナノマシンを老化のスローダウンに応用する研究も始めます。これまで看護は、その活字が意味するように「手と目で護る」ことを基本としてきたため理工学的なイノベーションが他領域と比べて遅れており、新産業の創出に繋がる可能性が高い領域といえます。

**体内病院:プロジェクトCOINS参照 202105_COINS_NK.indd (kawasaki-net.ne.jp)